レオロジー機能食品研究所

これまで研究開発と新たな発見

これまでの発見と論文

昨年までに発表した論文の内容をまとめると、

  • (1)プラズマローゲンは老化促進マウスの神経新生を促進することが分かりました。プラズマローゲンを投与する事によって神経細胞が新生するわけですから、アルツハイマー病の治療が可能になると考えられます。
  • (2)プラズマローゲンはリポポリサッカロイド(LPS)による神経炎症および脳内アミロイドβ(Aβ)タンパクの蓄積を抑制するという事を明らかにしました。
  • (3)実際、海馬内へアミロイドβを注入すると学習記憶障害が起こります。すると現実にアルツハイマーラットが出来るわけです。それに対してプラズマローゲンを投与すると学習記憶障害が起こりにくく、且つ神経炎症が起こらない事を証明しました。なお、老化促進マウスの海馬の中の歯状回で神経新生が起こるかどうかは、飼料を口から与え免疫染色法で証明しました。ちなみにプラズマローゲンは口から与えると崩壊するという事が定説になっていましたが、我々の実験では餌で口から与えても赤血球膜にプラズマローゲンが増大するという事を、すでに※別の論文で証明しています。

論文

Takehiko Fujino, Tatsuo Yamada, Takashi Asada, Yoshio Tsuboi, ChikakoWakana, Shiro Mawatari, Suminori Kono: Efficacy and Blood Plasmalogen Changes by Oral Administration of Plasmalogen in Patients with Mild Alzheimer's Disease and Mild Cognitive Impairment: A Multicenter, Randomized, Double-blind, Placebo-controlled Trial. EBioMedicine 17: 199-205, 2017

[要旨]

背景:プラズマローゲン(Pls)がアルツハイマー病(AD)の死体脳および患者血液で減少していることが明らかになってきた。我々の動物実験においてPlsを腹腔内投与すると認知機能が改善することを最近報告した。本研究では、軽度ADと軽度認知障害(MCI)を対象にホタテ由来Plsの経口投与による認知機能改善効果と血中Plsの変化を検討する。

方法:本試験は軽度ADとMCIを対象とした多施設、無作為、二重盲検、プラセボ対照による24週間の研究である。参加者の年齢は60〜85歳で、ミニメンタルステート検査-日本語版(MMSE-J)20~27点、高齢者用うつ尺度短縮版-日本版(GDS-S-J)5点以下の328名を登録し、ホタテ由来Pls 1mg/日摂取群とプラセボ群に無作為に割り付けた。患者、試験担当者とも割付について知らされなかった。主要評価項目はMMSE-J、副次評価項目はウェクスラー記憶検査-改訂版(WMS-R)、GDS-S-J、赤血球膜および血漿のホスファチジル・エタノールアミン・プラズマローゲン(PlsPE)濃度とした。本試験は大学病院医療情報ネットワークにID UMIN000014945として登録されている。

結果:登録された328名のうち276名が試験を終了した(治療群140名、プラセボ群136名)。軽度AD(20≦MMSE-J≦23)とMCI(24≦MMSE-J≦27)を含む治療企図解析(ITT解析)において、主要評価項目、副次評価項目ともに上昇し、治療群とプラセボ群の群間に有意差は見られなかった。また、両群とも重篤な有害事象の報告はなかった。軽度ADでは治療群においてWMS-Rが有意に改善し、両群間で有意に近い差が見られた(p=0.067)。軽度ADのサブグループ解析では、治療群の77歳以下の症例と女性でWMS-Rが有意に改善し、両群間に統計的有意差が見られた(p=0.029、p=0.017)。軽度ADでは、血漿PlsPEがプラセボ群で治療群より有意に低下していた。

考察:ホタテ由来精製Plsの経口投与で、軽度ADの記憶機能が改善することを示唆している。


Mawatari, S., Hazeyama, S. & Fujino, T: Measurement of Ether Phospholipids in Human Plasma with HPLC–ELSD and LC/ESI–MS After Hydrolysis of Plasma with Phospholipase A1
Lipids, 51(8), 997-1006, 2016

[論文の要旨]

背景:ヒトの血漿にもプラズマローゲンは〈エーテルリン脂質〉は存在しているが、ヒト血漿のエーテル脂質は濃度が低いので、最近はタンデムマススペクトロメトリー(LC/MS/MS)が使用されている。しかし、LC/MS/MSは価格が高価で、しかもその維持管理も難しい。

方法:ホスホリパーゼA1(PLA1)を血清に作用させると他のリン脂質は分解されるがエーテルリン脂質とスフィンゴミエリン(SM)はそのまま残る。したがって、エーテルリン脂質はHPLC-ELSDのクロマトグラフィー上で、それぞれ独立したピークとして計測できる。そのうえHPLC-ELSDで使用した試料はそのままLC/ESI-MSでも分析できる。私どもはHPLC-ELSD法、およびLC/ESI-MS法を開発した。

結果:これらの方法でヒト血漿〈42人〉のエーテルリン脂質であるエタノラミンエーテルリン脂質とコリンエーテルリン脂質を測定したが、文献上のヒト血清のプラズマローゲン量とほぼ一致していた。そのうえ、ヒト血清をPLA1処理後さらに塩酸処理したところ、ヒト血漿のエーテルリン脂質にはプラズマローゲンだけではなくアルキル型エーテルリン脂質が存在していることがわかった。

結論:ヒトの血漿中のエーテルリン脂質を、現在では通常の機器であるHPLC-ELSD法での測定法を開発した。


Shamim Hossain, Kurumi Mineno, Toshihiko Katafuchi: Neuronal Orphan G-Protein Coupled Receptor Proteins Mediate Plasmalogens-Induced Activation of ERK and Akt Signaling. PLoS ONE11(3):e0150846, 2016

[要旨]

われわれはプラズマローゲン(Pls)が神経細胞のAktやERK1/2などの蛋白リン酸化酵素の活性を増強することによって神経細胞死を抑制することを報告した(PLoS ONE 2013, 8(12): e83508)が、その機序については不明であった。近年、種々の脂肪酸やグリセロリン脂質がそれぞれに特異的なG蛋白結合型受容体(GPCR)を有することが明らかになってきたが、今回われわれは、Plsによる細胞シグナル伝達機序として、これまでリガンドが不明であるGPCR、いわゆるorphan(孤児)GPCRに注目し、培養神経細胞を用いて実験を行った。まずはじめにPlsによるERKの活性化がG蛋白阻害剤で完全に抑制されたことから、GPCRの関与が明らかになった。次に19種のorphan GPCRについて神経細胞に強く発現している10種のGPCRを選び、その発現をショートヘアピンRNAレンチウイルスでノックダウンした。その結果GPR1、19、21、27、および61のノックダウン細胞でPlsによるERKおよびAktの活性化が抑制された。次にこれらのGPCRを過剰発現させると、PlsによるERKおよびAktのリン酸化が増強した。もっとも興味深いことは、Pls合成酵素のノックダウンによる内因性Plsの低下によってGPCRを介したシグナル伝達の増強が顕著に減少したことであった。このことは、神経細胞自身がPlsをシグナル伝達物質として放出している可能性を示唆している。以上から、Plsによる細胞シグナル伝達機序として特定の5種のGPCRの関与が初めて明らかになった。


Shamim Hossain, Masataka Ifuku, Sachiko Take, Jun Kawamura, Kiyotaka Miake, Toshihiko Katafuchi: Plasmalogens rescue neuronal cell death through an activation of AKT and ERK survival signaling. PLoS ONE 8(12): e83508, 2013

[要旨]

結果:神経細胞由来の細胞株である Neuro-2A 細胞において培養液中の血清濃度を低下させると、ミトコンドリアを介した内因性経路内のキャスペース 9、および共通経路のカスペース 3 が活性化され、Neuro2A 細胞のアポトーシスがおこった。ところが培養液中に Pls を加えると、これらのカスペースの活性化が抑制されアポトーシスが有意に減少した。さらに低濃度血清によって AKT および ERK のリン酸化が抑制され、Pls によってその抑制が消失した。また Pls によるアポトーシス抑制作用は、神経細胞の初代培養系でも同様に見られた。結論:Pls によるアポトーシス抑制作用は、アポトーシス促進蛋白である Bad および Bim 蛋白を抑制する AKT および ERK の活性化によると考えられる。その分子機構として、AKT/ERK の活性化に関与する種々のチロシンキナーゼや G 蛋白を含む細胞膜上のリピッドラフトにおける Pls の役割が示唆される。


Masataka Ifuku, Toshihiko Katafuchi, Shiro Mawatari, Mami Noda, Kiyotaka Miake, Masaaki Sugiyama and Takehiko Fujino: Anti-inflammatory / anti-amyloidogenic effects of plasmalogens in lipopolysaccharide-induced neuroinflammation in adult mice. Journal of Neuroinflammation 2012, 9:197

[Abstract 和訳]

背景:神経炎症は、アルツハイマー病などの神経変性疾患におけるグリア細胞の活性化を引き起こす。プラズマローゲン(Pls)は細胞膜を構成するグリセロリン脂質であり、膜流動性や、細胞の小胞融合・シグナル伝達などの過程において重要な役割を果たしている。

方法:本研究では、成体マウスの免疫組織化学検査、リアルタイムPCR、および脳中のグリセロリン脂質量の分析を行い、LPS誘導性の全脳性神経炎症に対するPlsの予防効果を調べた。

結果:LPS(250 μg/kg)を7日間腹腔内注射した結果、前頭前野と海馬においてIba-1陽性ミクログリア細胞とグリア線維性酸性タンパク質陽性のアストロサイトの数が増加し、同時にIL-1βおよびTNF-α mRNAが強く発現した。さらに、LPS投与群のマウスには、前頭前野と海馬にβアミロイド(Аβ1-16)陽性ニューロンが発現した。ところがLPSを注射した後にPls(20 mg/kg、腹腔内注射)を同時投与すると、サイトカイン産生を伴うグリア細胞の活性化とАβタンパク質の蓄積が著しく減弱した。また、前頭前野と海馬におけるPlsの含有量がLPSによって減少したが、Plsの同時投与で、その減少は抑制された。

結論:上記所見から、Plsには抗神経炎症作用とアミロイド生成予防効果があると考えられ、アルツハイマー病の予防または治療へのPlsの応用が示唆される。


Shiro Mawatari, Toshihiko Katafuchi, Kiyotaka Miake and Takehiko Fujino:Dietary plasmalogen increases erythrocyte membrane plasmalogen in rats. Lipids in Health and Disease 2012, 11:161

[Abstract 和訳]

背景:プラズマローゲンの欠乏を原因とする疾患は数多く報告されている。このような疾患に対しプラズマローゲン組織を補充することは、当該疾患の患者には有効と考えられるが、プラズマローゲンの哺乳類への経口投与の効果は未だ報告されていない。

方法:プラズマローゲンは鶏皮から精製した。精製プラズマローゲンの組成は、エタノラミンプラズマローゲン(PlsEtn)が96.4%、コリンプラズマローゲン(PlsCho)が2.4%、スフィンゴミエリン(SM)が0.5%であった。精製プラズマローゲンを0.1%含有する食餌(PlsEtn餌)をラットに与えた。変質していないプラズマローゲンを他のリン脂質から1回のクロマトグラフィーで分離できる高速液体クロマトグラフィー(HPLC)法を用い、リン脂質の相対組成を測定した。

結果:PlsEtn餌をズッカー糖尿病肥満(ZDF)ラットに4週間与えたところ、コントロール群と比較して、血漿コレステロールおよび血漿リン脂質が減少した。その他、トリアシルグリセロール、ブドウ糖、肝機能および腎機能、アルブミン等、通常の血漿検査の数値、ならびに体重には、違いは見られなかった。PlsEtn餌投与群では、赤血球PlsEtnおよびホスファチジルエタノールアミン(PE)の相対組成は増加したが、ホスファチジルコリンの相対組成は減少した。PlsEtn餌を正常ラットに9週間与えた場合にも血漿コレステロールおよび血漿リン脂質が減少し、それにより赤血球細胞膜中のPlsEtnの相対組成が増加した。その他通常の血漿検査の数値、ならびに体重には違いは見られなかった。

結論:正常ラットおよびZDFラットにPlsEtnを経口投与すると赤血球細胞膜中のPlsEtnの相対組成が増加し、それにより血漿コレステロールおよび血漿リン脂質が減少する。正常ラットにPlsEtn餌を9週間与えた場合でも、その健康状態への悪影響は一見認められない。


Shinji Oma , Shiro Mawatari , Kazuyuki Saito , Chikako Wakana , Yoshio Tsuboi , Tatsuo Yamada , Takehiko Fujino: Changes in Phospholipid Composition of Erythrocyte Membrane in Alzheimer's Disease. Dement Geriatr Cogn Disord Extra 2012; 2:298-303

[Abstract 和訳]

背景:エタノールアミンプラズマローゲン(pl-PE)がアルツハイマー病患者の脳組織および血清中で減少していることを示す報告がいくつかなされている。本研究の目的は、アルツハイマー病患者の赤血球におけるpl-PE等のリン脂質の組成を調べることであった。

方法:変質していないプラズマローゲンとその他のリン脂質を1回のクロマトグラフィーで分離できる高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いた。

結果:年齢適合対照群の数値と比較すると、スフィンゴミエリンに対するpl-PE、ホスファチジルエタノールアミン(PE)、およびホスファチジルセリン(PS)の割合が低かった。

結論:赤血球中のリン脂質の割合の変化は、酸化ストレスにより誘発された変化を反映している可能性があり、アルツハイマー病患者の末梢血中に強い酸化ストレスが存在していることを示唆している。


Shiro Mawatari, Yumika Okuma, Takehiko Fujino: Separation of intact plasmalogens and all other phospholipids by a single run of high-performance liquid chromatography. Analytical Biochemistry 370 (2007) 54-59

[Abstract 和訳]

プラズマローゲンは、グリセロール骨格のsn-1位にビニルエーテル結合を有することで特徴づけられるグリセロリン脂質に特有のサブクラスであり、多くの哺乳類の組織の細胞膜中に高濃度で確認されている。しかし、プラズマローゲンを変質していないリン脂質として分離した例はこれまで報告されていない。本論文では、クロマトグラフィーを1回実行しただけで、変質していないエタノールアミンプラズマローゲン(pl-PEs)とコリンプラズマローゲン(pl-PCs)、および哺乳類の組織中に通常認められるその他リン脂質を分離できる高速液体クロマトグラフィー法について述べている。HPLC用ジオールカラム、および1%酢酸と0.08%トリエチルアミン含有のヘキサン/イソプロパノール/水系の勾配を利用して分離された物質を得た。HPLC法によって、ジアシル類似体からプラズマローゲンを変質する事なく分離することが可能となった。ヒドロペルオキシドを用いたヒト赤血球の過酸化の研究にも応用されている通り、HPLC法によって、pl-PEsは他のジアシル類似体と比較して、2倍近く酸化されやすいことが明らかとなった。